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第6話 てのひら

Penulis: 文月 澪
last update Terakhir Diperbarui: 2025-05-09 18:22:41

 なんとか眞鍋さんを振り切って、実技棟の理科室へと急ぐ。さっき江崎先生が持っていた本は、それほど多くはなかった。一冊が分厚いだけで。だったら昼休み中に終わらせられるはず。

 そう思っていたのに、眞鍋さんがなかなか放してくれず時間を無駄にしてしまった。時計はもうすぐ12時30分を指そうとしている。お昼休みは13時までだから急がないと。

 階段を一足飛びに駆けあがる。

(こういう時、3階っていやだな)

 実技棟は、コの字型の校舎に囲まれた中庭に面していて、上から見たらヨの形になっている。校舎との渡り廊下は1階にしかなくて、2階にある私の教室からは遠回りになってしまう。しかも、その渡り廊下は中央棟にしかないのだ。

 設計ミスとも思えるその配置は、もちろん生徒から不満が上がっている。中央棟には職員室があるから、教師の利便性を優先したんだろうな。

 胸中で溜息を吐いて、腕時計を気にしながら踊り場を曲がった瞬間、勢いよく胸に何かがぶつかってきた。私は数歩下がったくらいで済んだけど、相手は踊り場までの数段を滑り落ちてしまう。見下ろせば、見覚えのある明るい茶髪が目に入った。

「えっと、確か瀬戸先輩……ですよね? ごめんなさい、急いでいたもので。大丈夫ですか?」

 手を差し出すと、お尻をさすりながら身を起こす。まだ立ち上がれないのか、座り込んだままだ。

(あれ?)

 てっきり掴まれると思っていた腕は、さらりとかわされた。なんでだろう、少し悲しいと感じてしまう。

「いてて……ボクこそゴメンね。凛ちゃんは大丈夫?」

 そう言って見上げる顔は、今朝見た時と同じ愛くるしい笑顔だ。一瞬だけ感じた空気が気になるけど、つい癖で笑顔を作ってしまう。

「私は大丈夫ですよ。これでも鍛えていますから。先輩こそ、結構な音しましたよ」

 そしてふと、今の体勢に気付いた。

 階段を滑り落ちた先輩が、私の足の間にすっぽり収まっているのである。私が先輩を跨いで、その上に仁王立ちするような形で。

「ご、ごめんなさい!」

 慌てて飛びのく私に、先輩はぽかんとして、それからお腹を抱えて笑い出す。

「あっはははは! 何その反応! 普通はボクが謝る所でしょ? 女の子の股の下に入り込むなんて、ラッキースケベってやつ?」

(ま、股!?)

 その言い様に、私はさっとスカートを押さえる。

 まさか。

「見えてない、ですよね……?」
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